年を取って、思わぬ恋に救われる

こちらははと@810ibara)さん主催の「ぽっぽアドベント2023」の記事です。

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12月のお楽しみぽっぽアドベント。今回のテーマは「NEW WORLD」 
12月7日担当安琦です。

ぽっぽアドベントには3年ぶりの参加です。NEW WORLD ……参加していない間に、うわさの「ブラザー!」が熱い映画「新世界」(ありがとう。最高だった。俺の孤独に誰も触れるな2023大賞受賞です)を見て、そしてわたしは50代っていう「新しい世界」に足を踏み入れました。50……ここを読む多くの人にとっては未知の遠い世界、あるいはご両親世代かもしれない。楽しいことなさそうな、人生折り返した静かな日々……そう思うでしょうね。私もまあ似たようなことを考えていたが、実際はどうかというと、過去のわたしがぼんやりと想像していたものとは全く違っていた。ライフステージにおける「新しい世界」は若いころに比べれば減ったが、それで穏やかな日々が送れるかと思ったら大間違いだった。世界も自分の生活も思ったようによくはならなかった。考えることは多く、ままならないこともまた多い。
心はずいぶんと自由になったかもしれない。持っているのがつらいものを手放す術を覚えたし、ある種の鈍感さを身に着けて、生きやすくはなった。だがそれだけで穏やかさは手に入らない。ひとことで言っちゃえば、年を取るのは思っていたより難しいなってのが感想だ。いろいろなサービスや商品コンテンツのターゲットからは外れているのを身を以て感じ、アップデートに必死になっていても、思考や理解には追い付いていないものが山のようにある。身に着けた鈍感さは裏を返せば他人を傷つける道具になりうる危険を常に孕み、自分の心をまだ持て余す日々もある。そしてなにより体が言うことを聞かない。目は見えなくなるし、白髪は増えるし、体力はなくなるし、よくわからんがずうっと疲れているって状態だ。健やかでいるために必死にメンテナンスをするがそれでもまだ追い付かず、なんだか気力が湧かない。気力湧かないと、気持ちの落ち込みも激しい。そんなときに限って仕事や子育てでめんどくさい案件が浮上する。(今年は二日連続で子①②が順番に骨折したのがハイライト)気がつけば、わたしは毎日のように「頼む、何も考えたくない、寝かせてくれ」と思っている。
読書量と映画やドラマの視聴量はよく読んだり見ていたりしたころの1/3くらいになった。上映スケジュールが合わない、劇場が遠い、仕事が忙しい……理由を書こうとしたが、実際のところ、そうじゃないかもしれない。ただ単に新しいものを求める欲がなくなってきたのかもしれない。

 

何かにハマるのは恋に似ている、と3年前のぽっぽアドベントに書いた。
恋がいつやってくるか、わたしたちには予想ができない。ある日、突然、恋に落ちる。みなさんもよくご存じだと思う。甘酸っぱくて、キラキラしてて、ちょっと胸が苦しいあの感じ。何かにハマって、睡眠時間を削って情報を仕入れ、いてもたってもいられず走り出す。楽しい、疲れるけど。そしてその楽しさを知っているわたしたちはやっぱりそのキラキラをいつでも求めているように思う。
だけど、恋ってしたくてできるもんじゃない。
「新しい世界」、求めているけど、開かない。ああ、世界が閉じているな、と感じて、それがひどく寂しくなる。アンテナ張ってるつもりなのに、引っかからないんだよと口に出してみる。そのうちもしかしてアンテナは立ってないかもしれないという不安が顔を出す。このまま気持ちが枯れちゃいそう。でも「新しいことを求めています」と言ってみたところで、自分がこれまで生きてきた中での趣味趣向というのはだいたい決まっていて、ここでわざわざ時間を使って、自分が「これまでの経験から考えて自分に刺さるとは思えない」ものを体験しにいくか、というと、それについてはだれしも腰が重くなるのではないだろうか。忙しいとか、時間がないとか、とにかく言い訳は山のように転がっているわけで。結果、やはり世界は閉じている。
幸い、誰かが経験したことをシェアしてくれるTLは私をいろいろなところに連れて行ってくれる。誰かが読んだよさそうな本をメモし、誰かが行った素敵な場所をブックマークする。それでもその取捨選択にはやはり「もともと私の趣味趣向に合うかどうか、あるいはこれまでの自分がいいと思えたものに近いかどうか」が関わっている。興味のないことって目の前を流れていくに任せてしまうから。

2022年12月、スラムダンクの映画でみんなが騒いでるなあと思った。だが、これもまた私の前を流れていっただけだった。連載当時の盛り上がりも知っていたが、それも「全然興味ないわごめんね」って感じだったので。12月25日、リビングの机の上にスラムダンク新装版全21巻が置かれていた。「クリスマスプレゼントだ、これを読め、そして俺と一緒に映画を見に行こうぜ」という父から子へのメッセージだったらしい。もちろんわたしは見向きもしなかった。絶対わたしが「好きなやつじゃない」と思ったからだ。そうして子2人が原作を読み終わった1月の午後、父子は揃って「THE FIRST SLAMDUNK」を見に行くことにし、その日家にいた私にも声がかかった。その寒い冬の午後、なぜ出かける選択をしたのか自分でもよくわからない。ふと流れるに任せていたTLの熱気を思い出したからかもしれないし、一応親子イベントやっとくかという義務感だったかもしれない。見に行く30分前に「桜木花道」と「流川楓」以外のメンバーについてネットで情報を仕入れた。「相手校は全員坊主だから、無理して覚えようと思うな放っておけ、あとバスケのルールも知らなくても見られる」個人のかたが書かれた情報だったと記憶しているが、2時間意味わからんは避けられるのだと知ってありがたかった。ゴールに入れると2点入る、遠くから入れると3点入る。それ以外はほとんど知らないままで劇場に向かった。
結果……わたしは見事に恋に落ちました。帰宅直後こうつぶやいている↓

 

洋画や海外ドラマでない世界に?二次元に?マジです。映画館を出て家族に言った一言は「(主人公の)宮城リョータにご飯を腹いっぱい食べさせたい」だった。新しい衝動だった。その晩から睡眠時間を削って原作を読み始めた。家ではリョータの母カオルさんと私がママ友だという妄想を語り続けた。子からはとうとう「母、カオルさんとママ友っていう新ジャンルの夢小説書けるよ」と言われた。ごめん、母、三週間後に本当に書いた。

面白いもので、ひとつの世界の扉が開けば、そこにはまた新しい扉が広がっている。そうして、わたしは次々と扉を開くことに躊躇がない。
①バスケットのルールを知る
②子の部活の試合を見に行ったら①の一部が適用できることを知り、解像度が上がる→部活の試合観戦にまじめに行くようになる
③絶対行かないだろうと思っていたビックサイトのイベントに向かう(人生初)。海沿い並ぶ衝撃と熱気に当てられた
③バスケットボールワールドカップを見る
④生で試合が見たくなり、Bリーグの試合を見に行く→ルールがわかると、前回観戦したときよりずっと楽しい

今年一年のわたしの「新しき世界」は、たった一本のアニメ映画からこんなふうに広がっていった。同居人は「あなたがスポーツ観戦のチケットを自分で取る日が来るとは思わなかった」と驚き、子①はスポーツのトリビアをいっぱい教えてくれる。子②はザファ好きなら呪術廻戦も刺さる!とゼロを見せてくれた。
こういう不思議な世界の広がりかたをする恋もあるんだな、ってなかなか新鮮だった。わたしは自分は何かを極めるタイプではなく、いつも浅瀬で足先を水につけて楽しむほうだと思っているが、まさにそんな感じで新しい世界が広がっていった――という楽しい話がいっぱいでした~で終わりたかったがそうはいかなかった。もう一山あった。

秋のはじめ、なんだかいろんなことが立て続けに起こった。家のことだったり仕事のことだったりいろいろだが、そのうちのひとつは今後誰かが経験するかもしれないのでシェアしておきます。人生で初めて過多月経なるものを経験した。人生の先輩たちが教えてくれた中年の生理って、「なんか、あんまでなくなって不順になってそのうち終わる」だったので、日々の生活を送るのに苦労するくらいの出血をする自分が信じられなかった。ありえない。献血だってお断りされ続けているのに、こんな量の血を流していいわけがない!病院に行ったが、結局原因は不明。珍しいことではないそうです。(楽になるオプションはいくつかあり、そのひとつを試すことになりました。落ち着けば楽になるはず)出血は心をむしばむ。一人で汚れた服やシーツを洗いながら、また思った。穏やかに年は取れないのかよ……無理らしい。
当たり前だが、すごい量の血を排出するので貧血になり、体もつらいので無気力と落ち込みがひどくなった。何もできない……って思った11月、フォロイーさんが誘ってくれたBリーグの試合があった。深く何かを極めないで浅瀬で足元を遊ばせていると、ときたま声をかけて手を引いてくださる方というのがいらっしゃる。今回も自分じゃ満席続きという試合のチケットなんか取れなかったと思う。ありがとうございました。
すごくすごく楽しみだったのに、出かけるのが億劫、という中で、前から5列目というありえないくらいのいい席で見せてもらったのはW杯でも活躍した河村選手とジョシュ・ホーキンソン選手が出ている横浜ビー・コルセアーズサンロッカーズ渋谷の試合だった。5列目……ブースターでもないのに、5列目……。
わーおもしろいね、すごいね、と見ているには近すぎて迫力がありすぎた。きゃーって見ていることもできなかった。圧倒された。小さい体がびゅん、とコートを駆け抜ける。何が起こったかわからないくらいの速攻、相手を出し抜くフェイント、決まりまくるスリー、スリーを打つと見せかけて絶妙なところに落ちるパス……華麗ってまさにこのことだ。河村選手が出てきただけで明らかに試合の流れが変わり、別のチームみたいになるのが素人にもわかった。人よりずいぶん小さい体で、それを武器にして走れる強さってどのくらいのものだろうと思った。努力と鍛錬、強気と信念。

https://www.instagram.com/kawamurayuki_8/

ちなみにこの距離だったので低いところでボールがやり取りされるプレーは見えません


なぜか見終わったとき、私は感動とかではなく、「負けてられっかよ」って思っていた。自分でもよくわからない急な前向き発言だし、今振り返ってみてもその時の気持ちはうまく言葉に表せない。ついでにその負けてられっかよ、の気持ちのままぽっぽアドベントの参加まで決め、現在ここにいる。年明けから新しい世界の扉を開け続けた結果、見えた景色は過去のわたしからは思いもよらないものだったけれど、その意外な伏兵に(言いかたは大げさかもしれないけれど)救われた瞬間だった。

というわけで、これが今年、私の経験した新しい世界の話でした。何が変わったかといわれれば、何も変わっていない。相変わらずわたしはずーっと疲れているし、ちょっと多忙が続くと倒れちゃうし、物理の子育てに手がかからなくなると、金の算段と心理戦が始まるってことがわかったし、やっぱりときどき気分は落ち込む。簡単に年を取れないのはこれからも同じだろうし、さらなる不調が待ってるんだろうな、みんな更年期怖いぜって言うし。そして、今年突然THE FIRST SLAMDUNK から始まった一連のビックウェーブがいつまで続くかはわからないし、永遠に続かないことも知っている。まあでもそれでもいいじゃん、とわたしは主人公宮城リョータのように「できるだけ平気なふりをし」て、鷹揚に構えることにする。一度好きになったものは私の血肉となり、ずっと体のどこかに残っているし、新しい出会いから何かがつながり、それがふとした瞬間に自分を救うことになるかもしれないので。
新しい世界の扉を開くのは、ある人にとっては強い意志で、ある人にとってはタイミングである。ある場合には重大な決意を必要とし、ある場合には魔が差したくらいの気持ち。チャンスはそこここにあり、それに触れてみるかどうかもまたタイミングなんだろうな、と思う。でももしタイミングが合ったら、軽い気持ちでいろんな扉を開けよう。そこからまた新しい世界がつながるよ。それから健康は大事、めちゃくちゃ大事、なにかあったら病院に行こう。新しい扉を思いっきり開けて楽しむために。

 

ぽっぽアドベントはここからすべての記事が読めます。主催のはとさんも素敵な方なら、集まる方々も個性的で素敵で、みんなのNEW WORLD 本当に楽しいよ。

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きのう12月6日は あとりさんの記事でした。質素?うそ、めっちゃおいしそうじゃん…っていうお弁当の日々。

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明日12月8日担当は あそ さんです。ぜひ楽しんでください。